
鳴沢村、河口湖町、忍野村などの富士北麓地域では、古くから甲州もろこしと呼ばれる
トウモロコシが栽培されている。これらの地域は標高が高く冷涼であり、当時は水稲の
栽培ができなかった。そのため、主食は、キビ、アワなどの雑穀、ジャガイモ、そして
トウモロコシであった。
富士北麓地域では、四国、北九州地方と並び、日本在来トウモロコシの主産地として知
られている。トウモロコシがいつごろからこの地域に入ってきたかは、はっきりした資
料が得られない。山梨県郷土年表を見ると1861年にトウモロコシが栽培され、四斗
五升の収穫があったと見られる。
明治25年の山梨県市郡村誌には、小立村(現在の河口湖町)の物産の項に、「玉濁泰
」の名が見られる。この頃には、確実に主食の一つとして、栽培がほぼ定着していたと
思われる。
トウモロコシは、いくつかの種類に類別できるが、甲州もろこしは、フリントコーン(
硬粒種)と呼ばれるタイプで、現在生食用に栽培されているスイートコーン(甘味種)
とは明らかに異なる。スイートコーンのように茹でて食することは希であり、甲州もろ
こしは通常、粉にされ団子等として利用される。
甲州もろこしの特徴としては、草丈250センチ前後と高く、円筒型で細長い穂を持つ
。雌穂長は、剥き実で約22~24センチ、縦列は12・14列のものが最も多い。外
観上は、旗葉が少なく、絹糸は赤いものが多い。この点がスイートコーンとは異なる。
フリント種であるため、完熟した種子は硬く光沢がある。5月中旬に播種し、収穫は1
0月上旬となる。収穫はスイートコーンと異なり、種子の完熟を待っての収穫となる。
播種から収穫までの日数は概ね140日~150日であり、これは、標高に影響されな
い。収穫した雌穂の苞葉(ヒョウハ)をむきとり家の壁面に稲架様の乾燥架を組んで掛
干しをして乾燥する。また、軒先や屋内に吊るして乾燥する事もある。雌穂が十分に乾
燥した後、人力または、手回しの脱粒器で脱粒調整する。収量はa当たり25kg前後
である。
甲州もろこしはすじ萎縮病抵抗性などの重要な病害抵抗性を持っており、現在の改良さ
れたトウモロコシへ導入されている。現在では栽培面積も僅かとなった甲州もろこしで
あるが、その遺伝子は、改良されたトウモロコシに受け継がれ、多くの品種で利用され
てきている。
(加藤 成二)